BOOK「秀吉と利休」

秀吉と利休
野上彌生子著
(中公文庫:300円)
※自炊本を再読(昭和50年に購入)

野上彌生子は明治18年生まれの作家で、『ホトトギス』で文壇デビューした、わたしにとっては半分歴史上の作家。この『秀吉と利休』は、1964(昭和39)年に中央公論社から出版され、第3回女流文学賞を授賞した。
千利休を描いた小説として、高校時代にはじめて読んだけど・・・その歴史観・価値観はいま現在に至る紋切り型のもの。いわば、その総集編とでもいうべき内容だった。つまり、利休は「わびさび」であるのに対して秀吉は「華美」。利休は茶道的に高尚で天才であるけど、秀吉は凡才で俗人的。利休は精神的に成熟しているけど、秀吉は稚拙で独善的・・・。利休を絶対視して、対比として秀吉をとにかく貶める価値観で書かれている。高校時代は無批判に読んだので、そういうものなのだろうと素直に信じてしまった。
最新の研究では、利休や秀吉の茶道に関する見方も変化してきてはいるけど、まだまだこの価値観が一般的。この小説も古典的なものとして割り切れば、いまでも面白く読めた。

BOOK「項羽と劉邦(下)」

項羽と劉邦(下)
司馬遼太郎著
(文春文庫:amazon:688円)
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劉邦は奇策を用い、滎陽城から身ひとつで脱出、関中に逃げ込んだ。ここからの巻き返し・・・のはずが、またも敗走。劉邦は負けてばかりいる。一方の項羽はただの戦バカ。チートな戦闘能力でもあるかのように勝ち進むけど、いつも劉邦を取り逃がしてばかりいる。それに対して劉邦の将・韓信は強い。第三勢力に独立しそうな勢い。・・・ここにきて、どいつもこいつも色気づきやがって。項羽がロリコンの鬼畜じゃなくてホッとした。
この巻の前半は韓信、中盤は広武山で劉邦と項羽が対峙し、劉邦にとってはどん底の状況。終盤は固陵城からの反撃。垓下での「四面楚歌」と項羽の最後。絶対強者でありながら勝ちきれなかった項羽に対して、最後まで御輿の上に乗り続けた劉邦が勝ち残った。
この小説にはたくさんの登場人物が登場する。多くの読者は、自分自身がどの人物に似ているかを探すようだけど・・・どんな下っ端の人物も、わたしは当てはまりそうもない。描かれることもなく死んでいった数十万のモブの一人なんだろう。

BOOK「項羽と劉邦(中)」

項羽と劉邦(中)
司馬遼太郎著
(文春文庫:amazon:688円)
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楚の懐王が家臣と交わした約束は、「いち早く関中に入った者を関中王とする」。主力の項羽、別働隊の劉邦が競って咸陽を目指す・・・。
関中を制したのは劉邦。秦王子嬰が降伏し、劉邦の進軍は終わった。そして、遅れてきた項羽と相まみえる「鴻門の会」。高校時代に漢文で習った有名なシーン。授業中に読んだそれは、緊張感溢れる簡潔な表現であったけど・・・ここではその緊張感が余り感じられなかった。
項羽は、咸陽に火をかけ、秦王子嬰の首を刎ね、事実上の天下を取った。劉邦は漢王に任じられ、一時、僻地の巴蜀・漢中に下ったが、すぐに関中を奪還、東進を開始。項羽の都・彭城を落とすが大敗。壊滅して滎陽城に逃げ込んでの籠城戦にも敗れ、滎陽から脱出する。ここに至っても劉邦は負け続けているし・・・ダメ人間ぶりも変わらない。
・・・夏侯嬰の嫁・嫺嫺、この時代からツンデレっていたんだな^^;

BOOK「項羽と劉邦(上)」

項羽と劉邦(上)
司馬遼太郎著
(文春文庫:amazon:729円)
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何十年も前、文庫本になってすぐに読んだことがある。数年前から、そのうち読み返そうと思いながら、たまたま手頃な古本に出会わなかった。Amazonで古本を買おうかと思ったけど、読みやすさを考えてKindle版にした。
西安と兵馬俑、始皇帝陵には行ったことがあるし、項羽の叔父・項梁が蜂起した蘇州にも行った。江蘇省の南京はともかく、劉邦の故郷・沛地方まではさすがに行ったことがない。中国の地理関係には多少馴染んでいるつもりだけど、念のため最初は巻頭の地図とGoogleマップを見ながら読み進めた。
まずは、項羽と劉邦が倒すべき当面の敵である、秦の始皇帝の姿を描くところから。キモは、だれもが皇帝になり得るという価値観を作ったのが始皇帝自身だということ。項羽の叔父・項梁が蜂起。沛県ではチンピラから亭長になった劉邦が蜂起した。
この巻は、亡楚の軍として、項羽と劉邦が共に戦っていた時期。項羽は別働隊として咸陽に向け進軍。項羽は、趙王の援軍として鉅鹿城で秦軍に勝利した。秦の章邯将軍を配下に加えたが・・・兵20万人を大虐殺したところまで。当時の20万人って、いまでいうとどのくらいの感覚だろうか?

BOOK「竜馬がゆく(八)」

竜馬がゆく(八)
司馬遼太郎著
(文春文庫:629円+税)
※古書を購入

この小説もこれが最終巻。つまり、勤王討幕の山場ではあるけど、志半ばで龍馬は殺されてしまう。ふつう、どんなに危機的状況でも、ヒーローは生き残る。生き残るからヒーローともいえる。でも、竜馬だけは、死んだ後もヒーローであり続けている・・・。
この巻は「大政奉還」の仕込みから実現までと、並行して「錦の密勅」は土佐・長州に硬化されるかのタイムレース状態。徳川慶喜が体制の奉還を決心した直後に、密勅が出されたが、これは無効。叩くべき幕府が消滅してしまったから。
大政奉還という無血革命が成り、竜馬の最後の仕事は新政府づくり。八分までは自分で行い、残りは田のものに任せるという思想で、竜馬自身は新政府には参加する気はなかった。「この仕事が片付いたら、海に戻るんだ」という龍馬の言葉は、いまでいえば、明らかな「死亡フラグ」に違いない^^;;
なるほど、坂本竜馬も偉業については納得した。死んでしまったから維新後の活躍がなかったことで、中途半端な印象を抱いていたらしい。たしかに竜馬の存在は巨大だったけど・・・かれこれ150年も過ぎた今日、高知県はいまだに「坂本竜馬」で発展が止まってしまっているような気がするといったら、彼の地の人々に失礼だろうか。
<完結>

BOOK「竜馬がゆく(七)」

竜馬がゆく(七)
司馬遼太郎著
(文春文庫:552円+税)
※古書を購入

明治維新の中心的な働きをした藩は、薩長土といわれるけど、ここまでは脱藩浪人が活発に動いていただけだった土佐藩がようやく動きはじめた。
船を持たない商船会社は惨めなものだけど、どうにか船を手に入れ、さらに土佐藩の支援を受け海援隊へと発展させた。でも、長崎で綿を仕入れて持ち船で運び、上方で売るという仕組みは、北前船あたりとそう大きな違いがない。利益は上がるけど、竜馬的な独創性を感じられないのだが・・・。そういえば、この小説に北前船はいまのところいっさい触れられていない。でも、竜馬には船についての運がない。汽船・いろは丸まで、積み荷ごと最初の航海で沈めてしまった。
時勢が来て、竜馬は本腰を入れて動きはじめたけど、最後に「大政奉還と「船中八策」。ここにも勝海舟という偉人が見え隠れしている。竜馬って、海舟に見えない糸で操られていたんじゃないかと疑いたくなる。
余談だけど・・・かねてから不思議だったことがある。岩崎弥太郎がどうやって土佐藩の財産を受け継いだのか? 維新のどさくさ紛れで、家老・後藤象二郎が勝手に与えたものらしい。見返りとして藩の借金をすべて押しつけたらしいけど^^;;

BOOK「竜馬がゆく(六)」

竜馬がゆく(六)
司馬遼太郎著
(文春文庫:552円+税)
※古書を購入

この巻は竜馬の薩摩行から亀山社中の設立、薩長同盟、直後に寺田屋で手負いとなり、お竜を連れて薩摩に下り長崎へ。さらに第二次長州征伐に参戦したところまで。
薩長同盟の成立は、竜馬の最大の功績だと思うけど、予想以上の活躍だった。ついでに、蒸気船の威力というか、交通インフラの重要性もよくわかった。でも、第二次長州征伐の直前、京阪は竜馬をターゲットとして厳重な警備がしかれていた。やっぱり、ここに来て竜馬は本当に大物なのだと納得した。
お竜という女性があまり好きではないけど、竜馬はついにお竜と一緒になった。この時代から「白衣の天使」効果は存在していたらしい^^;; 日本初の新婚旅行といわれる竜馬・お竜の塩浸温泉行きは、よくクイズ番組で出題されたりして知っていたけど、基本的には怪我の療養だったのか、これは知らなかった。
第二次長州征伐の様子は、昨年、北九州市立いのちのたび博物館で特別展「関門幕末維新伝」を見ていたので、それなりに理解していた。なかなか面白い巻だったけど、ある意味ではこれが坂本竜馬最大の山場なんだろう。