BOOK「菜の花の沖(六)」

菜の花の沖(六)
司馬遼太郎著
(文春文庫:552円+税)
※古書を購入

北海道の開拓と防衛は一貫してロシアの脅威に対抗するためだったから、本能的に北海道人はロシアが嫌いだ。その不信感の発端はこの小説に描かれた時代からはじまる。わたし個人としては、意外にロシア人が好きだったりするけど。
嘉兵衛の観世丸がロシア軍艦ディアナ号に拿捕され、嘉兵衛ほか5人がカムチャッカに連行された。文化露寇やゴローニン事件について、北海道では比較的しっかり習うけど、他の地域ではそうでもないと聞いたことがある。
嘉兵衛を捕虜にしたリコルド少佐は、なかなか見識のある人物だったらしい。この人物でなければ、日露関係はどうなっていたことか。対して、農民層の出自で船乗り・商人になった嘉兵衛が、どこまで近代的な国家観や外交感覚を持っていたか・・・司馬遼太郎の描き方ではかなりの人物。リコルドと嘉兵衛との間に信頼関係が生まれ、自分たちが帰国し、平和裏に事態を収拾させる方策が立った。
帰国した嘉兵衛は最終的に処罰されはしなかったけど、ゴローニン事件を丸く収めた結果、幕府から贈られた報奨金がわずか5両。北前船1回の航海で1000両以上の稼ぎが出るというのに・・・。まだ、個としての日本人が明確に国家を意識していなかった時期に、互いの国の辺境で出会った嘉兵衛とリコルドが通じ合えたことは、結局、時代のあだ花に過ぎなかったのが残念だ。
<完結>

BOOK「菜の花の沖(五)」

菜の花の沖(五)
司馬遼太郎著
(文春文庫:552円+税)
※古書を購入

大坂で建造した官船5艘と高田屋の商船3艘を引き連れ、箱館に帰還した。その船団で、蝦夷地御用掛首座松平忠明のウルップ島までの巡視航海に出かけた。ここに、かの間宮林蔵が乗船していた。
嘉兵衛による択捉島開発は、越冬居住にも問題がなく、新しい漁法の導入も成果を上げていた。しかし、ロシアの動きも活発となり・・・この巻は小説というより、日露外交史、近代極東史の教科書のような内容。これだけ詳しければ、新書でも書けそうな詳しさだ。興味のある事柄なので、これはこれで興味深く読んだ。当時の武士たちの有り様は滑稽以外の何物でもないけれど・・・日本は、幕府という軍事政権でありながら、いつの間にかまともな軍備を持たなくなり、当時の世界で最も平和な国家だったというのは不思議ぎなことだ。
この説明の間に、嘉兵衛は40代半ばになっていた。
ニコライ・フヴォストフによる「文化露寇」・・・ロシア軍艦により樺太や千島列島への襲撃が繰り返され、嘉兵衛が場所を請け負っている択捉島へも攻めてきた。さらにはゴローニン事件・・・嘉兵衛にとっては人生後半のハイライト。

BOOK「菜の花の沖(四)」

菜の花の沖(四)
司馬遼太郎著
(文春文庫:552円+税)
※古書を購入

幕府が東蝦夷地(浦河~知床に至る太平洋側。後に箱館~浦河を追加)を天領とし、奥羽諸藩に北辺警備の兵を割り当てた。箱館を治所とした。ここから、本格的な北海道の開拓史がはじまり、同時に高田屋嘉兵衛の成功がはじまる。嘉兵衛は冬の日本海を渡って箱館に至った。さらに太平洋岸を様似、厚岸まで出かけた。わたしの郷里あたりは、沖走りですっ飛ばされた。だから、明治まで寒村だったわけだ。
嘉兵衛は近藤重蔵と知り合い、国後島から択捉島への航路を拓く冒険に出た。近藤重蔵は教科書にも載っている名だけど、意外に小物という印象。この時期の嘉兵衛は、商売は度外視で、船乗り・冒険家としての行動が中心。役人には嘉兵衛を利用しようという意識もあったのだろう。事実、嘉兵衛は大公儀御用として択捉島の漁場開発を行い、さらに幕府の定御雇船頭として5艘の官船と自分の商船3艘の建造に着手した。明らかに公儀にすり寄りすぎている。サトニラさんの二の舞じゃないか・・・。

BOOK「菜の花の沖(三)」

菜の花の沖(三)
司馬遼太郎著
(文春文庫:552円+税)
※古書を購入

サトニラさんとの合弁で「高田屋」を起こし、借りた船を加えて4艘まで拡大した。そして念願の巨船「辰悦丸」(千五百石)を新造し、ついに松前・箱館への航海を果たした。江戸時代を通して千石を上限として規制されていたはずだが・・・。
嘉兵衛はこんなに急成長して良いのかと思うけど、久宝丸と昌徳丸(各八百石)の2艘を新造し7艘体制になった。松前で嘉兵衛は、初期の江戸探検家・最上徳内と知り合った。蝦夷をめぐる世界情勢と幕府の動き・・・嘉兵衛が拠点としたい箱館の発展に向けての時流・・・。幕府の蝦夷地調査団の船頭として久宝丸で厚岸まで足を伸ばし、ついにアイヌとも会うことができた。帰りは酒田に寄港しただけの沖走りで兵庫に戻った。
嘉兵衛の3度目の蝦夷航海はその冬のこと。嘉兵衛はちょっと無謀ではあるけれど、沖走りや冬季航海を開拓してしまったわけだ。

BOOK「菜の花の沖(二)」

菜の花の沖(二)
司馬遼太郎著
(文春文庫:552円+税)
※古書を購入

樽廻船に知工となり、ぎりぎり食べていけるようになった嘉兵衛。家を借り、おふさが子を産んだ。船乗りとしての実力も付いてきたけど、立場かスッキリしない。いまでいうところのフリーランスのような感じ。現代的な雇用のない時代だから、比較にはならないだろうけど。
嘉兵衛の当面の目標は、自分の船を手に入れるための資金稼ぎ。まずは北風荘右衛門の手配で、新宮から江戸まで冬の海を材木の筏で航海・・・名を上げるための冒険。帰りは荘右衛門が所有していた薬師丸(五百石)を手に入れ、さらにサトニラさんから長慶丸(三百石)を手に入れ、意外とあっさり船持ちになった。
株仲間というのは学校で習ったけど、この時代、商業資本がどう蓄積されてきたかなど、学校では教えてくれなかったことも多い。そして、郷里の人的つながりの強さには驚く。嘉兵衛は郷里で村八分にされたあげく村抜けして、網元の娘をかっさらったにもかかわらず、郷里で信用回復され、資金集めまで成功した。この時代の貨幣経済の浸透に驚かされる。

BOOK「菜の花の沖(一)」

菜の花の沖(一)
司馬遼太郎著
(文春文庫:514円+税)
※古書を購入

Kindle版の『項羽と劉邦』はすんなり読めたのに、老眼のせいで、やはりリアル本は読むのが辛い。
江戸時代後期の商人・高田屋嘉兵衛を描いた時代小説。北前船については、以前調べたことがあるし、高田屋嘉兵衛についても函館の資料館などを見てそれなりに知識はある。
最初の巻なので、当然、嘉兵衛の生い立ちから。どの程度の資料が残っていたのかわからないけど、嘉兵衛の家は貧乏で、辛い環境で育ったようだ。村で疎まれ、村八分となり命まで狙われるようになり・・・村抜けして兵庫に渡った。堺屋喜兵衛の下で下働きをし、おふさを呼び寄せた。そして、西ノ宮と江戸を結ぶ樽廻船に知工として乗り込むことになった。
嘉兵衛・・・人との縁もあり、それなりに運もあるけど、今のところ飛び抜けた才覚は見せていない。意志が強く、真面目だけど、風変わりの田舎者といった感じ。

BOOK「項羽と劉邦(下)」

項羽と劉邦(下)
司馬遼太郎著
(文春文庫:amazon:688円)
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劉邦は奇策を用い、滎陽城から身ひとつで脱出、関中に逃げ込んだ。ここからの巻き返し・・・のはずが、またも敗走。劉邦は負けてばかりいる。一方の項羽はただの戦バカ。チートな戦闘能力でもあるかのように勝ち進むけど、いつも劉邦を取り逃がしてばかりいる。それに対して劉邦の将・韓信は強い。第三勢力に独立しそうな勢い。・・・ここにきて、どいつもこいつも色気づきやがって。項羽がロリコンの鬼畜じゃなくてホッとした。
この巻の前半は韓信、中盤は広武山で劉邦と項羽が対峙し、劉邦にとってはどん底の状況。終盤は固陵城からの反撃。垓下での「四面楚歌」と項羽の最後。絶対強者でありながら勝ちきれなかった項羽に対して、最後まで御輿の上に乗り続けた劉邦が勝ち残った。
この小説にはたくさんの登場人物が登場する。多くの読者は、自分自身がどの人物に似ているかを探すようだけど・・・どんな下っ端の人物も、わたしは当てはまりそうもない。描かれることもなく死んでいった数十万のモブの一人なんだろう。
<完結>